「4人に1人は酸蝕症」って知ってますか?
今年の夏も暑いですね。
暑いとついつい飲みたくなるのがキンキンに冷えた炭酸飲料やジュースではないでしょうか。
水滴のついた氷いっぱいのグラスでいただくコーラ、
お祭りやBBQなどで飲むラムネ、
運動してたくさん汗をかいた後に飲むスポーツドリンク、
どれも夏の風物詩ともいうべき瞬間で、最高ですよね。
冷たい飲み物を飲むことは、熱中症対策のための水分補給としても欠かせません。
しかし、そんな夏の習慣にも、歯にとっては注意しなければいけないポイントがあるのです。
ずばり、「酸蝕症(さんしょくしょう)」です。
酸蝕症って?
私たちの口の中は、普段は中性のpH値7前後に保たれています。
しかし、飲食物や胃酸の影響でpH値5.5以下になると歯は溶けやすくなります。
歯が溶けてしまうと、食べものを噛んだり、歯みがきをする時の摩擦でどんどんすり減ってしまいます。
むし歯 → むし歯菌が糖質を分解して作る酸によって歯が溶ける
酸蝕症 → 酸性の飲食物などで直接歯が溶ける
冷たいものがしみる知覚過敏症になったり、むし歯が進行したりするなど、さまざまなトラブルを引き起こすことになるのです。
現在、国内での酸蝕症の罹患率は26.1%(2014年)であり、国民のおよそ4人に1人に上ることがわかっています。
酸蝕症はむし歯や歯周病につづく第三の歯の疾患と考えられているのです。
一度鏡でご自分の歯をチェックしてみてください。
・歯の表面がツルツルして艶がある
・前歯の先端が透けて、ヒビが入ったように見える
・奥歯が以前よりも黄色く見える
酸蝕症にはこのような見た目の特徴があります。
当てはまるものはないでしょうか。
酸蝕症になる原因は?
なぜ炭酸飲料やジュースが酸蝕症に影響するのでしょうか。
皆さんはご自分が普段飲んでいる飲み物のpH値を考えたことはありますか?
誰もが一度は理科で勉強したことのあるpH。
pH値が低いほど酸性が強いということになります。
実験で扱う液体だけではなく、飲み物にも酸性が強いものとそうでないものがあるのです。
炭酸飲料などはpH値2.2~2.9、オレンジやミカンなどの果汁飲料はpH値4.0前後が多く、ビールもpH値5.0以下のものがみられます。
これらの飲み物をよく飲んでいる人は、酸蝕症の危険があるということになります。
牛乳や麦茶などはpH値6.0程度のため、酸蝕症のリスクはほとんどないと考えられます。
なお、飲食物のpH値だけで判断するのではなく、酸の種類によってもリスクが異なるために注意が必要です。
ソフトドリンクに含まれることの多いクエン酸とリン酸を比較すると、クエン酸のほうが、酸蝕症のリスクが高いといわれています。
また、もう一つの要因として挙げられるのは、塩酸からなる胃液です。
胃液のpH値は1.0~2.0と強酸のため、これが口の中に流れ込むことによって酸蝕症を引き起こしてしまうことがあります。
逆流性食道炎、拒食症、アルコール中毒、摂食障害などで嘔吐などを引き起こすと、胃液が歯に悪影響を与えかねません。
これらの疾患があり酸蝕症を引き起こしている場合、疾患を元から治療することが必要です。
酸蝕症の対策は?
酸蝕症に対して、どのように気をつければいいのでしょうか。
食後30分の間は歯を磨かないほうがいいという意見があります。
新聞やテレビで多く取り上げられているため、聞いたことのある方もいるかもしれません。
食後は口腔内細菌が酸を出して口の中のpH値が下がります。
唾液の効果で30分ほどで正常なpH値に戻るのですが、その間に歯をみがくことで酸蝕症が進行してしまうリスクがあるからだというのです。
これに対して日本小児歯科学会は、
「子どもが通常の食事をしたときは早めに歯みがきをして、歯垢とその中の細菌を取り除いて脱灰を防ぐことのほうが重要」という見解を表しています。
酸性飲料を飲んだとしても、エナメル質への酸の浸透は象牙質よりずっと少なく、唾液が潤っている歯の表面は酸を中和する働きがあります。
酸性飲料の頻繁な摂取がない限り、すぐには歯が溶けないように防御機能が働いているので、一般的な食事では酸蝕症は起こりにくいと考えられるからだといいます。
子どもの歯みがきの目的は、むし歯予防のために歯垢の除去、すなわち酸を産生する細菌を取り除き、その原因となる糖質を取り除くことです。
歯みがきをしないままでいると、歯垢中の細菌によって糖質が分解されて酸が産生されて、歯が溶け出す脱灰が始まります。
このように、歯垢中の細菌がつくる酸が歯を脱灰してできるむし歯と、酸性の飲食物が直接歯を溶かす酸蝕症とは成り立ちが違うものだという説明です。
また大人の場合でも、「酸性飲食物の摂取直後のブラッシングは避ける」としながらも、「食後のブラッシングはこれまで通り、むし歯の予防に有用といえる」とされています。
つまり、極端に酸性食品が多いメニューでない通常の食事の場合には、食後の歯みがきはむし歯を予防するために必要だということです。
ただし、この2つのグラフを見てください。
食事の間隔をしっかり空けていると口腔内のpH値が元に戻って再石灰化できるのですが、ダラダラ食べ続けているとpH値が戻らず歯が溶けやすい状態が続いてしまいます。
むし歯に対してよく言われていることですが、酸蝕症対策としても、しっかりと間隔を空けて食事をとることが大事です。
さて、これまでの食習慣によって、酸蝕症が進行してしまっているのではないかと心配する人もいるでしょう。
酸蝕症は自分では気づきにくいので、そんな場合は一度受診してください。
通院するのは歯の痛みを感じたとき、という人も多いかもしれませんが、むし歯も歯周病も酸蝕症も早めの対応が重要です。
自分の歯がどんな状態にあるのか、確認しておくことをお勧めします。
また、酸蝕症の予防には適切なブラッシングを心がけることが大切です。
ブラッシング圧(歯みがき圧)は、毛先を歯面に当てた時、毛先が軽くたわむ程度(150~200g)がいいとされており、圧が強すぎたり乱暴であればエナメル質は摩耗します。
ブラッシング方法についても、受診していただいた患者さんにお話ししています。
ぜひ一度ご相談ください。
参考文献:
「各種飲食物の酸性度と酸蝕歯の関係」(北迫勇一)日本歯科医師会雑誌 Vol.63 No.9 2012-12より
「子どもの発育と酸蝕歯」(朝田芳信)子どもと発育発達(日本発育発達学会編)Vol.12 No.3より
「各種飲食物の酸性度と酸蝕歯の関係」(北迫勇一)日本歯科医師会雑誌 Vol.63 No.9 2012-12より
「食後の歯みがきについて」(日本小児歯科学会) より
「食後30分間、ブラッシングを避けることの是非」(日本口腔衛生学会 フッ化物応用委員会) より
「子どもの発育と酸蝕歯」(朝田芳信)子どもと発育発達(日本発育発達学会編)Vol.12 No.3より